響は謙太郎を唆す
9 謙太郎の婚約者
2人とも停学にはならないと、すぐに学校から電話があった。
響を家に送ってから、謙太郎は家に帰って怒りを爆発してしまうかもと思いながら歩く。
停学にならないと言われても、それで解決したわけじゃない。
自宅に戻ったら、玄関に見慣れない女物の靴がある。見た途端、ぐっと詰まるほどの気持ちが込み上げてきた。
こんな時間に誰が来ているのか。
母親に話をしようとも思っていたので、勢いが削がれたような気持ちだった。
ぐっと抑えて、リビングの扉を開けた。
ダイニングの机に、3人が座っている。
弟はいなかった。
父親が、いつもの自分の席にいた。
母親は、いつものように余所行きのさも上品そうな話し方で、楽しそうにしている。
高いティーセットがいつものように並び、紅茶と洋菓子が並んでいる。
ティーセットは、母のお気に入りの“イギリスのバラ”シリーズ。綺麗なグリーンのラインと深いピンクの薔薇が手書きで描かれた繊細なもので、フルセットで揃えて100万円近くしたらしい。
玄関の女物の靴の持ち主。
艶のある肩までのショートカットに、質の良い上品な服装で、謙太郎の母親とさも親しそうに話す。
都築 紗代子
父親の親友、もちろん代々続く医者の家系の、都築総合病院の1人娘。
謙太郎も生まれた時からの幼馴染で、良く知っていた。