響は謙太郎を唆す
唐突に、謙太郎は、
「じゃ、部屋に戻ります。」
と言ったら、
「お疲れなのね」
とか、
「あら、引き止めちゃって」
とか、
「謙太郎、今日はどうだったんだ? 」
とか、いろんな言葉に取り囲まれたが、もう聞きたくなかった。
何とか、二階にあがった。
しばらく部屋で息を整えて、何が現実なんだろう、と思った。
下の団欒は、謙太郎にとって違和感のないものだった。
謙太郎が、変な事を言い出さなければ、おそらくずっと続いていた、当たり前のものだった。
自分だけが余計な事を言っていると思わせられた。
しばらくして洗面をしようと部屋を出たら、紗代子が立っていてギョッとした。
紗代子は嬉しそうに謙太郎に笑いかけ、近寄って、謙太郎の胸に頭をつけた。
「謙太郎さん、しばらくよろしくね。
おば様とおじ様に、ご厄介になります。」