響は謙太郎を唆す
謙太郎が、取り敢えず紗代子をさりげなく離した。
気まずかった。
紗代子の髪の上質な何か、シャンプーか整髪料か、良い匂いがして、謙太郎の服にも匂いがついたと思った。
だからといって、唐突に拒否するような事をされたわけではない。
改めて「彼女がいるから」とわざわざ言わないといけないような話の流れでもない。
こんな幼馴染の関係だったのが、ちょっと年齢が上がっただけだ。
そんなギリギリの微妙な距離を、分かっているのかそれとも計算なのか。
謙太郎は、昔から、この、いかにも女子校育ちの紗代子に、どう接して良い分からないところがあった。
親しくて全く親しくない距離感がつかめない。
紗代子はウフフと笑って、
「このお部屋、使わせていただきますね。
謙太郎さんのお部屋のお隣よ」
と、謙太郎の部屋の隣の、特に何にも使ってない洋室をさした。