響は謙太郎を唆す
「父と母が、ヨーロッパの学会に出かけたので、しばらくお世話になります。一緒に過ごせるわね」
「そうですか」と返事するしかなかった。
親のお客様と言うだけだ。
「風呂入ってくるから」
と、逃げた。
湯船に浸かっていたら、洗面所に誰か入ってきた。
曇りガラスの扉の向こうから、紗代子の声がして、
「謙太郎さん、おば様がお寝巻き持って行ってって。ここ置いときますね」
と言って、また、出て行く音がした。
紗代⋯⋯ 。
なんか、最悪だった。
こんな所入るか?
確かに、昔は一緒に風呂に入った事もある。
子供の時だけれど。
この年齢で。
母親が、わざと仕組んでいるんだろう、と思えた。
こんな、あからさまな。