響は謙太郎を唆す

1日目。
連絡もしてあったのに、夕食を紗代子が待ち構えていたので一切断り手をつけなかった。
弁当も断った。
紗代子が作ろうとしたからだった。
この際なので、ちょうど、はっきりと

「彼女が作ってくれるから。
大事な女がいる」

と言った。

母親も紗代子も、まるでそんな話聞いていないみたいに振る舞う。
でも、夕食を外食にしたら、金がかかり不安だった。
家を出るかもしれないから金は使わずにとにかく置いてある。
自分名義の通帳やお年玉など、かき集めて持ち歩いていた。
響は、黙って保冷バッグに入れた晩御飯を、昼食と一緒に持ってきてくれるようになった。
それが救いだった。

でも、謙太郎は本当の紗代子の姿に気がついていなかった。
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