響は謙太郎を唆す
呼び出されたのは指導室ではなく、パーラーと呼ばれる応接室のような部屋だった。
意外に思いながら部屋をノックし、外から名乗ったら、「お入りなさい」と言われ、中からドアが開いた。
担任がドアを開けていた。
部屋の中をさっと見ると、低めの大きな机が置かれ、3人がけのソファーが向かい合わせの形で机を挟んでいた。
知らない2人の女性が隣り合わせに座っていた。
どちらもいかにも上流の、綺麗な水で頭から足の先まで洗ったような雰囲気で、上質なスーツと、ワンピースだった。
1人は響と同じぐらいの年令の目鼻立ちがすっきりとしたスレンダーなかなりの美人。
もう1人は年齢は50代だろうか、それでも若々しく一目で金のかかったアクセサリーをつけ、優しそうな穏やかそうな、いかにも奥様といったかんじの婦人だった。
ブランドのバッグが横に置かれ、きちんと閉じた綺麗な足に2人とも上品なヒールを履いていた。
親子だろうか。
同じ雰囲気をまとっている。
なぜ、ここに呼ばれたのかわからず、響が戸口でじっと立っていたら、
「ご挨拶もお出来にならないのね」
と、年上の方の女性が上品な口調で言い、響はそれが、自分に向けた嫌味を含んだ言葉と分かるまでに時間がかかった。