響は謙太郎を唆す

担任が慌てて、

「早くお入りなさい!さぁ、ちゃんとご挨拶して!」

と言いながら響を押したので、とにかく部屋に入り、わからないまま頭を下げ、こんにちはも変だし何て言って良いか分からず、黙ったまま、また頭をあげた。
目の端で、横にいる担任も頭を下げているのが見えた。担任は、

「この子が戸波 響です」

と響の方に手を出して説明してから、響に、

「内藤様、謙太郎さんのお母様です」

と紹介した。

響は、口が少し開いて、でも息が止まったような気がして、それから、ゆっくり息を吐いた。
どうして良いか分からなかった。

担任は「すみません」とか「本当に」とか言い、恐縮しながら、とにかく響を横に座らせ、自分も座り、まだ謝っていた。

響が前を見たら、ちょうど若い方の女性と目が合った。

微妙な沈黙になり、まさか響が話をするわけにもいかず黙っていたら、謙太郎のお母さんは、天候の話をしはじめた。
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