響は謙太郎を唆す
言い返せるはずがなかった。
謙太郎のお母さんだから、好きな人の親に何も言えるわけない。
この人達、謙太郎がいないところで私に話をつけにきたんだ、と響は思った。
心が苦しかった。
謙太郎の育った環境の人達。
それは響は否定したくなかった。
口を挟む事も出来ない。
育った世界を全部背負って、その上で謙太郎本人なのに切り離す事も否定する事もしたくない。
ただ、そんなまるごとの謙太郎の手を取って、共に生きたいだけだ。
「お分かりになって?」
と、急に尖った声で母親が響に言った。
謙太郎のお母さんなのに⋯⋯ と思って、声が出なかった。
「だから、お分かりよね!」
と、もう一度少しイラッとしたように言う。
一体何が分かったと言っているんだろう。
身を引くって?事?それは、具体的に何をどうして欲しいのか正直分からなかった。