響は謙太郎を唆す

言い返せるはずがなかった。
謙太郎のお母さんだから、好きな人の親に何も言えるわけない。
この人達、謙太郎がいないところで私に話をつけにきたんだ、と響は思った。
心が苦しかった。
謙太郎の育った環境の人達。
それは響は否定したくなかった。
口を挟む事も出来ない。
育った世界を全部背負って、その上で謙太郎本人なのに切り離す事も否定する事もしたくない。

ただ、そんなまるごとの謙太郎の手を取って、共に生きたいだけだ。

「お分かりになって?」

と、急に尖った声で母親が響に言った。
謙太郎のお母さんなのに⋯⋯ と思って、声が出なかった。

「だから、お分かりよね!」

と、もう一度少しイラッとしたように言う。

一体何が分かったと言っているんだろう。
身を引くって?事?それは、具体的に何をどうして欲しいのか正直分からなかった。
< 157 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop