響は謙太郎を唆す

「すみません。良く分かりません」

としか、答えられなかったが反論していると思われたのだろうか。
母親と紗代子は絶句して、はっと息を呑んで、上品に手で口を押さえた。
母親が「まぁ⋯⋯ 」と言葉もなく震えた。

響はそんな反抗的な事を言ったつもりはなかったのにな、と体から汗が出て冷たくなっていくような気がした。

どうしよう、謙太郎のお母さんなのに⋯⋯ 。

「分からないって、えっ?あなた、なんて事。信じられないわ」

横から紗代子が、

「何様のおつもり?」

と言ってキッとにらんだ。
響は、

「謙太郎⋯⋯ さんは、本人のまま、そのままで生きたらいいと思ってるだけです。だから私も誰も、何の口出しも出来ない、と思っています」

と、やっと答えたが、これも、とても気に入らなかったみたいだった。
母親は何だか真っ青になって震えていて、紗代子も
「おばさま!大丈夫ですか?」と悲痛な声で騒いだ。
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