響は謙太郎を唆す
一度に桜の花が舞いあがり、風に揺れる葉の間から明るい日差しがこぼれる。
響は軽く目を閉じた。
春に包まれるみたい。
閉じた瞼に日の光が通り、頬や髪に春の風があたっている。

響も謙太郎も黙っていた。
静かな桜の下、お互いに無言でも不思議と気詰まりには感じはなかった。

響はこのまま校舎に戻るのか「さよなら」って言うのも何だか変だしな、と思ってチラッとみたら、謙太郎がまだ響を見ていた。

ふいに謙太郎が、

「髪に桜の花びらがついてる」

と言った。
風に舞った花びらが3枚、響の髪を飾るようについていた。

「え?」

と、響は右手で頭に触ったが分からなかった。

「いい?とるよ?」

謙太郎が響に断って、親指と人差し指で、そっと花びらをつまもうとしたみたいだった。
柔らかな薄い桜の花びらは、髪の間に入ってなかなか取れなかった。

謙太郎が大きく一歩、響に近づいた。
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