響は謙太郎を唆す

響はドキッとして、とっさに少し後ろに下がって避けてしまった。
すると謙太郎が、

「動いたら取れない」

と、低く言って、左手を伸ばし、大きな手で響の後頭部をすっぽり包んでささえた。

(!、近いよ、⋯⋯ )

こんな、至近距離で男子に近づいた事はなかった。

背が違うから、響が真っ直ぐ前を見たら、目の前に謙太郎のブレザーの胸ポケットと学年のカラー、そうだ同じクラスだったと思う。

知らない匂い、香水と男の人の匂いがする。

体温まで感じるぐらい、こんな慣れたようなしぐさで女子を扱う人なんだと思った。

花びらをとるために、後頭部の大きな手が包むように動いて首の向きを変えたので顔が熱くなる。
なぜか謙太郎の扱う手のままに動かされ、でも嫌ではなかった。

頭の中も熱くなって何も考えられないような感じがする。

謙太郎の手が離れたら、そのまま力が抜けて座り込んでしまいそうだった。
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