響は謙太郎を唆す
謙太郎の手が、角度を変えるように動いた。
頸に近い謙太郎の小指に力が入り、親指が柔らかく撫でるように動き、彼の手のひらに包まれた頭が自然と上を向く。
(あっ⋯⋯ )
と響は思った。
(これって⋯⋯ )
首の角度が、謙太郎の顔に向けて見上げるようなかんじになってる⋯⋯ ?、
これじゃ、まるで⋯⋯ キスするみたいじゃ⋯⋯。
謙太郎と 視線が絡まった。
響は呼吸もできず動けないと思ったが、すっとすぐに解放された。
響は自分が思った事が気恥ずかしくなって浅く息をした。
謙太郎は花びらを取り終えて、ゆっくり、そっと、手を離してから、響のブレザーの学年を確かめるようにチラッと見た。
「お前の名前、教えて」
明日になったら、わかるけど、と響は思った。
「俺は、内藤 謙太郎 ってんだ」
知ってる、と響は心の中で思った。
「戸波」
「下の名は?」
「ややこしいから、教えない」
何となく、素直に言いたくなかった。
「ふーん」
と、謙太郎が言った。