響は謙太郎を唆す

紗代子⋯⋯ 。
綺麗な髪の紗代子の顔が浮かぶ。
響が言い返した時、黙って能面のように無表情だった⋯⋯ 。
(私が、お湯をかけたって言ったの?警察に?)

「やってない」

と響は言った。
どう感情を込めていいのか分からなくなっていて、無感覚な声。
言ってすぐ、まるで本当に聞こえないようだと自分でも思った。

「でも、一緒に部屋にいた、内藤さんも証言されています」

えっ⋯⋯ 謙太郎のお母さんが?
そんな事⋯⋯ そんな嘘ついてまで、こんな事する?
どうしよう、謙太郎のお母さんなのに⋯⋯ 。
胸が詰まったようになって喉も苦しいような気がした。

「でも、本当にやってません」

なんとか言ったが声が震えている。
そして涙がじんわり溢れて、右手の甲で拭ったが止まらない。
あやしく見えてしまう。

まるで真実をつかれた犯人みたいに。
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