響は謙太郎を唆す
1 満開の桜の下、出会い

4月、新学期。

戸波 響(となみ きょう) は、高校3年になった。

その日の放課後。
他の生徒はもう帰宅してしまい、校舎はしーんと静まりかえっていた。

校舎の外に出たら、制服のスカートの足元に春の風があたり、少し肌寒いぐらいだった。
今日は冷たい一日だった。

さっき始業式の後、
「戸波さんちょっと」
と、女性の担任の先生に1人だけ呼び出された。

職員室横の小部屋に入ると教頭も座っていて長々と注意を受けた。
いつもの事だ。

響自身は全く何の問題も起こしたことはない。
むしろ優等生だと思う。

『家庭環境』
その事だけで、小さい時から響は先生方から色眼鏡で見られてきた。

素行を疑われる。
さらに他の生徒に悪影響があるんじゃないかと心配される。

今日も、一方的に話し続ける教師に、
(だから私は何もしてない⋯⋯ )
と響は思った。

目立たないようにだけ気をつけて、真面目に過ごしてきただけだった。
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