響は謙太郎を唆す
「ひびき、おい、ひびき?⋯⋯ 戸波!」
教室に入ったら名前を呼ばれた。
はっと振り返ったら、謙太郎が響を見下ろしていた。
「ひびきじゃないし」
と、とっさに言い返して、しまったと思った。大人しく、大人しく。
「あれ?今日は髪おろさないの?」
と、謙太郎は馴れ馴れしく聞きながら、響に近づいてきた。
どんな再会だろうと思っていた。
それは、まるでずっと友達だったみたいに自然に親しげだった。
そんな風に話しかけられた響は、いったいどんな距離感の答え方をしたらいいんだろう。
謙太郎が手を伸ばして、響の結んでいる髪に触れた。
響の目を見ながら、ふっと笑顔になった。
謙太郎のあたたかい気持ちが流れこんでくる⋯⋯ 響の心がドクンと大きく動いた。