響は謙太郎を唆す
父と話した後、響と会いたいと思っていたところだった。
電車が事故で止まっていたので、車で出ようとしていたら、紗代子が強引に乗り込んできた。
紗代子は、謙太郎が家に帰った瞬間から後をついてずっと話しかけてきていて、何やら火傷をした、とかで包帯をしていた。
『大丈夫?』と挨拶みたいな返事はしたが、冷めた気持ちで(ふーん、火傷?本当に?)と思っていた。
最初、車から引き摺り下ろしてやろうか、と内心思ったが、ふとこのままついでに都築の家に帰ってもらおうと思いついた。
走り出してから、
『彼女の家に行く』
と謙太郎が言ったら、
『戸波、きょう、さん?』
と紗代子がおずおず言ったので(えっ?)と思った。
『ちょっと、知り合いなの。実は』
(知り合い?)と謙太郎は怪訝に思った。
響の名前は言ったことないし、フルネームで知ってるって、どういう事かと考える。