響は謙太郎を唆す
しばらく無言で、その後、
『なんの?』
と聞いた。
紗代子は聞かれるのを、うずうずと待っていたみたいで、ここぞとばかり話し出す。
『あの、お天気の良い平日だったかしら、戸波さんが、あなたが謙太郎の彼女ですか、って尋ねて来られてね』
(嘘だろ)と謙太郎は思った。
どうせ、母が学校に聞いて、紗代子も知ってんだろ。
響に何をやったんだ、と不安に思っていた。
それが⋯⋯ 。
学校に何回も乗り込んで?
嫌がらせ?
響に罪を着せた?
響のさっきの顔を思った。
涙の後と傷ついた表情だった。
そんな時に紗代子を連れて行ってしまった。
焦った気持ちで連絡を入れているが、響は既読にならない。
車も紗代子もほっておいて響の側にいればよかった、と謙太郎は思った。