響は謙太郎を唆す

しばらく無言で、その後、

『なんの?』

と聞いた。
紗代子は聞かれるのを、うずうずと待っていたみたいで、ここぞとばかり話し出す。

『あの、お天気の良い平日だったかしら、戸波さんが、あなたが謙太郎の彼女ですか、って尋ねて来られてね』

(嘘だろ)と謙太郎は思った。
どうせ、母が学校に聞いて、紗代子も知ってんだろ。
響に何をやったんだ、と不安に思っていた。

それが⋯⋯ 。

学校に何回も乗り込んで?
嫌がらせ?
響に罪を着せた?

響のさっきの顔を思った。
涙の後と傷ついた表情だった。

そんな時に紗代子を連れて行ってしまった。

焦った気持ちで連絡を入れているが、響は既読にならない。
車も紗代子もほっておいて響の側にいればよかった、と謙太郎は思った。


< 206 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop