響は謙太郎を唆す

何も乗っていない大きなリビングの机の上に、響の携帯がポツンと置いてあった。
(あっ)
と思い、謙太郎はそっと手で触れた。

「置きっぱなしだから、近所に出たのか。
ゲンとカナが、今探している」

とレンがポツンと言った。

どこに⋯⋯ 。
携帯まで持たずに⋯⋯ 。
さっきの響の顔。
車も紗代子もほっておけばよかった。
後悔が押し寄せる。

「俺が、馬鹿なことした。
知らないとはいえ、紗代子を連れてきてしまったんです」
「どうして」

とレンが聞いた。

「返品するために乗せてた。あんな、ややこしい女。家に返したら、ひどい悪態ついてた。
でも、そんな事なら、響についてればよかった」

2人とも立ったまま、経緯をお互い話した。
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