響は謙太郎を唆す

どこか探しに行こうかとソワソワしていたら、響の母親マリが帰ってきた。

「あの子、いないんですって?」

と言いながら、買い物をしたビニール袋を机に置いた。
レンが「マリ!」と慌てて近寄った。
かなりレンは動揺しているみたいだったが、マリは落ち着いていた。

「立ってても座ってても、同じだよ」

と2人を椅子に座らせ、お茶と買ってきたおにぎりを袋から出して並べ、自分も座った。

マリはセミロングぐらいの髪を無造作に後ろでとめているが、数本の落ちた髪が顔や耳にかかり、それがワザとらしくなく色っぽいかんじだった。
足を組んでゆっくり座り、指輪のついた手の肘を机について顎を乗せた。

空いている手で机の上の響の携帯を開け、
「あらあら」
と吹き出した。

「ナイト、余裕ないじゃん」

謙太郎は赤くなった。
夕方からだと電話も含めて何十通と送っている。
既読にならないまま。
今も響はいないのに、ここに携帯だけある。
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