響は謙太郎を唆す
「ごめん、なんか、響が妬いてくれて、正直嬉しくてたまんない」
「⋯⋯ 」
嬉しいって⋯⋯ と響は、上唇と下唇をぎゅーっとつむって、感情を止めるようにして謙太郎を見上げた。
謙太郎は優しそうに、嬉しそうに響を見ていた。
「あんな、ややこしい女、2度とごめんだ。
確かに幼い時からの知り合いだけど、それだけだ。
会いたいと思った事もないし、一生会わなくても何とも思ってなかった」
響は、なんか、謙太郎言い訳みたいだと思った。
何か引っかかるのは2人の姿を見たから。
まだ謙太郎は戻れるから。
紗代子と謙太郎は同じ世界にいるから。
謙太郎が『紗代子はナシ』ではないと響は感じるからだった。
「でも、謙太郎は、沙夜子と結婚出来るんだと思う」
と響は言った。
言ってから、ぎゅっと目をつむった。
全力で彼の言い訳を聞きたくて、そうしたいほど好きで、信じたくて。
でも彼の幸せはあちら側なのかもしれないし、謙太郎が心を残しているなら、そんな中途半端な状態では嫌だと思う。