響は謙太郎を唆す
「そうだな」
謙太郎は響のこめかみと耳と髪を撫でた。
目を瞑りながら、響は謙太郎の大きな温かい手を感じていた。
「もし、響に出会わなくて、俺が医者になりたくて、俺の家庭環境に疑問を持たなかったら、」
謙太郎は、ちょっと息をついた。
「あるいは、そのまま結婚していたかもしれない」
響がさらに目をぎゅっとつむった。
心もぎゅっとしていた。
謙太郎はそんな響を両手で撫でた。
「で、底意地の悪さとワガママに、一生台無しにしてた」
謙太郎はまた笑った。
「でも、そんな俺は、もはや別人で俺じゃないよな」
謙太郎は笑いながら、響のおでこに唇を寄せた。