響は謙太郎を唆す

「昼ごはん、一緒に食べるぞ」

4時間目が終わり全員立って先生に挨拶したその瞬間、響は後ろから声をかけられた。

謙太郎は自分の席から長い両腕で響の椅子を持ち、真後ろに向きを変えた。
それから響の両肩を掴み、椅子に座らせる。(強引だな)と思いながら響は椅子に座った。

謙太郎の机で2人、向かい合って座っている。

謙太郎は喋りながら、鞄からお弁当を出しはじめた。
響も椅子に座ったまま、自分のお弁当を取った。

(席も前後だし、一緒にお昼を食べる友達もいないけどね、なりゆきか)

と響は思いながら、前を向いて謙太郎の手元を見たら、青い蚊帳生地の花ふきんで綺麗に包まれた物がある。
彼がふきんを開けると、中から2段の上質な木製の弁当箱が出てきた。

(何だかすごく丁寧なお弁当だ)

と思った。

意外なんだか、やはりなんだか。
大きな総合病院の長男⋯⋯ 。
こんな所にも家庭が透けて見える。

でも、だからこそ親の愛情をちゃんと理解出来てるのかもとも思った。
< 25 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop