響は謙太郎を唆す

こんなお弁当を持って行くようにされているその状況が、謙太郎の家庭を想像させる。
良い家の御曹司、親の期待を受ける長男。
つまりは、

「親に愛されてる」

と響は謙太郎を見て言った。

謙太郎は無言だった。
返事をしなかった。

2人とも黙ってお弁当箱を開けた。

「響も丁寧な弁当だな」

2つとも旬の豆ご飯が彩りよく入っていて、他のおかずもよく似ていた。

「私は自分で作ってるから違うし」
「自分で毎日?」

謙太郎は響のお弁当を正面からのぞいた。
プラスチックではなく木の塗りのようなお弁当箱だった。
謙太郎は木の曲げわっぱだ。
どちらも彩よく品数も多かった。

でも謙太郎の母親のお弁当は、息子に構いたくて、そのありあまる愛情を暑苦しく過剰な形で押し付けているようなものだった。

謙太郎の気持ちなどお構い無しに。
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