響は謙太郎を唆す
謙太郎の置かれた状態。
親の束縛と、それに甘んじている謙太郎自身。
響はそんな謙太郎に気がついている。
謙太郎は、無言で響の作ったおかずを口に入れた。
美味しいと思った。
謙太郎の母親は、いかにも添加物なし、料理上手な上品な味です、といった食事を毎日用意する。
それに慣れていても、響の料理はおいしかった。
謙太郎の母よりもっと潔い、手際のいい、キリッとした味。
謙太郎は正面にいる響を見た。
謙太郎は昨日学校から帰っても、響の事が頭から離れなかった。
(花びらを取るときに手に触れた柔らか髪。
見下ろした彼女の額。
砂糖菓子みたいな容姿)
今まで謙太郎が見てきた女子の中でも響は一番好みだと思った。
柔らかな容姿に反して、響は射抜くような視線で謙太郎を見た。
はっきりと思った事を言う。
「自分でお弁当作ってるし」と言った時のちょっとした気の強さや自信が気持ちよく謙太郎の心に沁みたのだ。