響は謙太郎を唆す
謙太郎は当たり障りのない話しかしない。
楽しくて明るくて、自分以外の話。
響は謙太郎が強引で、いきなりの近い距離感に驚いたが、一緒にいたら何か違う⋯⋯ 。
謙太郎に感じるのは、もどかしいような疎外感だった。
謙太郎は一見、心の扉が開けっ放しみたいに、屈託無い雰囲気だが、その中にもう1枚頑丈な扉があり、内側からしっかりと鍵がかかっていて、容易に立ち入らせないのではないかと思う。
響が出会った時。
桜の下で目が合って桜の花びらを取ってくれた、あの時。
確かに彼の心が流れ込んでくるような熱さを感じた。
あの時は謙太郎の内側の心のドアが開いていたように響は思った。
だけど、今、その熱さが感じられない。
翌日から彼の内側の心は閉じてしまってる。
響は物足りなく思っている自分に驚いていた。
謙太郎みたいな人に、興味は持たないと、ずっと思っていたのに。
あんな風に、女子に接していた人なのに。