響は謙太郎を唆す
でも、少し分かった。
謙太郎の入口までは入れるから、勘違いするんだ。
その中のドアを開けて欲しくて、自分だけを入れて欲しくなって、自分が辛くなってしまう。
謙太郎は誰を入れるんだろうか。
入れてもらったらどんな謙太郎に会うんだろう。
どんな風に人生を歩んで行くんだろうか。
熱くて、やさしくて、溶けてしまいそうな。
いつか誰かを入れる謙太郎、それを、響は間近で見る事になるのか。
せっかくしっかり閉まっているドアを、彼女たちみたいにやはり響も叩くのかもしれない。
響は自ら地雷を踏んでいるのかもしれなかった。
学校の推薦の話を、まるで関係なさそうにフッと笑って頬杖をついて聞いている謙太郎を、響は思わずキッと睨んだ。
(見せてよ、入れてよ、中に!)
と心で思いながら。
謙太郎は響の視線に、何となくバツが悪そうな顔をした。
謙太郎は分かってるんだ。
自分が心を閉じている事を。
彼は困ったように目を逸らした。
響じゃない、ドアを叩けるのは、と言われた気がした。