響は謙太郎を唆す
謙太郎の家は9代続いての医者の家系だ。
男は全員、医者。
医者しかいない。
しかも父は直系で、その長男の謙太郎は当然、後を継ぐものと誰もが思っている。
謙太郎はそう育てられきた。
それを受け入れるのは一番楽だろう。
でも子供の頃から心の中でずっと声がしてた。
こんな環境で育てられたのに。
『医者になりたくないんじゃないか』って。
それは単純に。
深いトラウマや理由があるわけではない。
ただ小さい頃から一度も医者になりたいと思ったことがないだけだ。
そう思う事すら罪悪感を感じるような環境の中で、1人誰にも言えず、自分が間違っているのかもしれないと我慢し続けてきた。
響が言うように謙太郎が自ら医者になりたかったら、そう思えたらよかったのに。
でも謙太郎の中で、嫌だと言う気持ちの方が、どんどん大きくなるのだ。
内部推薦の決定が迫っていた。
謙太郎は息苦しく思って口から息を吐いた。