響は謙太郎を唆す
響が謙太郎をじっと見ている。
黙り込んで考え込む謙太郎を。
何か考えてるのかな、どうしたのかな、と謙太郎の心を考えている。
自由で真っ直ぐな響。
彼女は気持ちがいいと謙太郎は思った。
何にも囚われず自分の足で立つ。
謙太郎は、家に、親に、病院に、雁字搦めの状況だ。
違うから⋯⋯ 。
(俺の生き方は勿体ない。ずっと我慢して一生、生きるのか?)
響の声が聞こえるような気がした。
(嫌だ)
と謙太郎は思った。
親に支配されて、干渉されて、なりたくない職について、親の持ち物みたいに。
結婚も、子供も、ずっと。
謙太郎は響に惹かれていた。
どうしようもなく。
最初に会った時から。
もうそれは謙太郎の心の中で形になっていた。