響は謙太郎を唆す
謙太郎も、皆も「えっ?」と思った。
『娘?』『お父さん?』
謙太郎も響を抱き返したけれど(お父さんか⋯⋯ )と思った。
腕の中の響は、柔らかくて、愛しくて、お父さんと言われなかったら、ほぼ完全に告白だったかもしれない。
友達を見たら残念そうな顔をして慰めるように頷いてくれる。
お父さんて言葉、ものすごく、男としての気持ちにくっきりと線を引かれた気がした。
そんな変な気持ちで手を出したらいけないような。
だから、そっと響の背中に手をあてて、右手でそっと頭を撫でたら、響が急に勢いよく頭をあげた。
「ごめん、ブレザーに鼻水とヨダレついた」
響は慌ててランからお絞りを受け取って、謙太郎のブレザーを拭いたり、自分の顔を手で拭いたり、謙太郎は、響らしいなと可笑しかったが、今度は男として、ブレザーを拭く響の手を掴んで、かがんで抱き寄せた。耳元で、
「大丈夫、いいよ」
と囁いて、響の柔らかい白い首筋に顔をつけて、唇をあてた。
響は真っ赤になった。