響は謙太郎を唆す
靴箱まできたら、辺りはちょうど夕日に真っ赤に染まっていた。
入口は前面ガラス戸、
そこから、まっすぐに夕日が差し込んで、傘立ても、靴箱も、響も、後ろに真っ黒な長い影ができる。
傘立てに腰掛けていた人が立ちあがった。
真っ赤な光が逆光になって、シルエットみたいに黒くて、背が高くて、彼が響の前に立ったら、長い影に包まれた。
「響」
一番避けなきゃいけない謙太郎だった。
時間も思考も止まったみたいに、響は立って謙太郎の顔を見上げた。
ぼーっとしていたら、謙太郎は響の靴箱から外靴を出して履き替えるよう促した。
上靴を脱いで外靴を履いたら、謙太郎が上靴をしまってくれた。
手をつながれた。
赤くに夕日に染まる道を寄り添って歩く。
並木道は今は青々と葉が茂っている。
謙太郎と出会った時は、桜が満開だった。