響は謙太郎を唆す

靴箱まできたら、辺りはちょうど夕日に真っ赤に染まっていた。
入口は前面ガラス戸、
そこから、まっすぐに夕日が差し込んで、傘立ても、靴箱も、響も、後ろに真っ黒な長い影ができる。

傘立てに腰掛けていた人が立ちあがった。

真っ赤な光が逆光になって、シルエットみたいに黒くて、背が高くて、彼が響の前に立ったら、長い影に包まれた。

「響」

一番避けなきゃいけない謙太郎だった。

時間も思考も止まったみたいに、響は立って謙太郎の顔を見上げた。

ぼーっとしていたら、謙太郎は響の靴箱から外靴を出して履き替えるよう促した。
上靴を脱いで外靴を履いたら、謙太郎が上靴をしまってくれた。

手をつながれた。

赤くに夕日に染まる道を寄り添って歩く。

並木道は今は青々と葉が茂っている。
謙太郎と出会った時は、桜が満開だった。
< 77 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop