響は謙太郎を唆す
だけど、終業式の日。
謙太郎は朝から恐ろしく不機嫌だった。
誰が見てもわかるぐらいに。
何かあったのかと、皆ちらちら見て、話しかける人はいなかった。
担任の先生も謙太郎の様子にピリピリしていた。
押し黙って抑え込んだ感情が今にも爆発しそうだった。
謙太郎は見かけこそ強面だが、いつも感情が安定していて、あまり動じない。
こんな不機嫌な姿は誰も見たことがなかった。
夏休みの諸注意など、小1時間のホームルームが終わり、担任が出て行く。
響が一旦椅子に座ってカバンの準備をして、ふぅ、と一息ついていたら、急に隣の謙太郎が響の手首を掴んだ。
驚いて謙太郎を見たら、顔が真顔で口が真っ直ぐに引き結ばれ、暗い目でじっと響を見ている。
原因は響の態度だったんだろうか⋯⋯。
有無を言わさずに、響は連れ出された。