響は謙太郎を唆す

謙太郎は足を開いて座っていて、左肘を膝にだらんと置き項垂れた。
右手で自分の額の前髪をかきあげながら、

「考えてる事、全部言えよ」

と、苦しそうに言った。
そのまま肩越しに響を見た。

謙太郎は、すごく傷ついてた。

あの懇談の日。
キスされた日から、謙太郎からしたら響の心が閉じてるように感じたのかもしれない。

あんなキスをしたのに、謙太郎は何の約束も何の言葉もくれていないまま、ただ、響は俺のもんだ、と態度で示すだけなのに。

こんなグシャグシャの気持ち、見せたくないと響は思う。

一番聞きたい人に、一番聞きたい事が聞けない、一番言いたい事を、一番言いたい人に言えない。

それでも響の心は、真っ逆さまに謙太郎にもう落ちてる。

全く回復出来る見込みもない。
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