響は謙太郎を唆す

7月の初めの懇談の後から、響の様子はずっと変だった。

何か言われたんだろうと思ったら、親や先生や自分自身に怒りが抑えられなかったが、それより、よそよそしい響を見たらもっと我慢できなかった。

俺を見ろよ、ちゃんと、と、怒鳴りそうになった。
もう、何でもいいから、響と話がしたい。

他のヤツなんて、どうでもいいから、響と会いたい。
響との壁をぶち破って、響の心に触れたか
った。

今、謙太郎の手の下で、弱々しく聞いた響は、俺に内容を話せなかったんだと思ったら、自分が情けなくなった。

「俺の事、何か言われたんだろ?」

響は黙っていた。

謙太郎の手の下に、響の柔らかい顔がある。
目と、鼻と、唇、響の呼吸が手のひらに当たって、その手を響の両手が、白くなるぐらいギューッと握ってじっとしていたが、

「⋯⋯ っ⁈ 」

手のひらの手首に近いあたりを齧られたので、謙太郎は声が出てしまうぐらいに驚いた。
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