そう言って、返事も聞かずに彼女は僕の腕を掴んで走り始めた。   

 ノートを落とさないようにそれが入っている袋の手持ちをきゅっと強く掴む。

 彼女は、アスファルトの道路から外れて、砂利道を突き進んでいく。

 そこは、人ひとりが歩くので精一杯の獣道なようなところで、横並びになることができない分、腕を掴まれているとすごく走りづらい。

 そんな僕に目もくれずに、彼女は走り続けている。

 いろんな意味で、限界が来た。

「ちょっと、止まってもらっても、いいかな」

 なんとなく、肺が痛い気がする。

 普段勉強ばかりしている僕にとって、その長い走りは結構残酷で、一旦そう言って彼女の足を止めようとした。

「ああ、ごめんなさい。私ったら」
「いや、僕が…………普段運動不足なせいで」

 はあはあと息を吸っては吐く。ようやく、浅かった呼吸はいつものように戻る。

「じゃあ」

 その様子を見ていた彼女は、僕の顔色を見て、次は早歩きで奥に向かって行く。その後に続いた。

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