どれくらい歩いただろうか。   

 たった十数分な気もするし、もっともっと数十分も歩いたかもしれない。

 スマホも腕時計も置いてきたから、時間を確認するすべがなく、もちろん彼女もそんなものは持っていなかった。

 ただ、ここから見える空はまだ青い。

「はあ、着いた」

 開けた場所に着くと、彼女は歩くのを止めた。前にいる彼女を避けて、風景を見る。

「すごい……こんなの見たの初めてだ」

 目の前には、池だろうか、小さな湖のようなものがあり、その上は古い木々で覆われている。

 その木々の間から差し込む光は、まるで天から地上に注がれた道しるべのように見えて、そこは地球とは思えないほど幻想的だった。

 その水を眺めてみると、驚くほど透明で、底がはっきりと見える。

 そこには、小さい魚が悠々と泳いでおり、また、光が底の砂に反射して、それはまるで宝石を散りばめたようにきらきらとしていた。

 まるで、宝箱の中身のようだった。

 脳の中のビル群が、この透き通る水に変わっていく。  

 記憶が、まったくの正反対なものに塗り替えられていく。

「私、星から来たって言ったでしょう?」
「うん」
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