きっと、こっちに来て、という意味であろう。不思議とそれに逆らうことなく、彼女のもとへと歩いて行った。

 非現実的なことを言う彼女であるが、その容姿に、その雰囲気にそれを否定することさえ忘れてしまう。
 
 いや、本当に彼女の言う通りに、彼女の指した星から来たんではないかとさえ思わせる。

 それほど、彼女には現実味がない。彼女の腕を掴もうとしても、そこには空気があるだけではないか、そう考えてしまう。

 いや、この場所がそもそも現実味がなく、僕にそう感じさせるのかもしれない。

「あなたは、どこから来たの?」

 一度目に彼女の声を聴いた時は、それを感じ取る余裕がなかったが、こうして二度目にその声を聴くと、それがまた程よく高く透き通り、まるでうぐいすのような声だ。

 人間、という言葉が、彼女には合わない。

「僕は、本州の東京から」
「どうしてここに?」
「ちょっと……勉強に疲れてしまって、両親や医師にここに住んでいる祖父母のところに来るように言われたんです」
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