海から吹く風で、彼女の肩まである髪はさらさらと靡いている。

 その風が目に入るのを拒むように、彼女は目を細めた。

「この海のある所に、穴が開いているの」
「穴……」
「そう、そこが入り口。海に潜って泳いでそこまで行くのよ。鮮やかな色の魚たちと一緒にね。いいでしょ? 浦島太郎みたいで。あ、でも、亀はいないんだけど」

 言い終わると彼女は、履いているミュールを脱いで、揺れる水の中へと足を入れた。

 足首まで浸かったところでこちらを向く。

「水がちょうどよく冷たいわ。あなたも、こっちに来たら?」
「あ、はい」
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