言われるままにサンダルを脱いで急いで彼女のもとへ行った。

 確かに、海の水はこの夏という季節においてはその冷たさが気持ちよく、いつまでも浸かっていられるような気になる。

 波が引くと、その水位は足首よりも下がり、波が押し寄せると、また足首のところまで来る。

 ここの水は、都会の水とは違い恐ろしく透明で、僕や彼女の足がはっきりと見えた。

 僕の足よりも小さい彼女の足を見ると、可愛らしいという気持ちが自然と込み上げてくる。

 ずっと水の中を見ていると、砂が足の上を行き来しているのが、まるで踊っているかのように見えてきて、僕は自分の足をわざと動かして砂を動かしてみた。

 そうすると、足の周りの砂がぶわっと滑らかに動いて、その動きは地上にあるそれとはまったく違うものに見えた。

 一人の時間に没頭していた僕ははっとして彼女の方を見る。

「ところで、音さんは何歳なのですか?」
「薫さんと同じくらいかしら。私も、高校というものに途中まで通っていたの」
「そうなんですか」
「ああ、そう、そうなの。でも、ああ…………」

 彼女は頭を抱え込む。細い身体は震えて、水も波動を打つ。
< 8 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop