どうしよう、僕は何をしたらいい? 何も、分からない。

「私、帰らないと」 

 彼女は、いきなり海から出てミュールを手に取ると、走ってどこかへ行ってしまった。

 何が起きたのか分からず、小さくなっていく彼女の姿を、口をぽかんと開けて見ていることしかできなかった。 

 一人海に取り残される。

 いきなりのことで、まだ頭の中が整理できていなかった。僕は何か、彼女を混乱させることを言ってしまったのだろうか。

 考えても、自分が特別何かを言ったとは思えず、僕は目の前に広がる風景に目を向けた。

 一人で見る海の景色は、先ほどとは違ってごくごく平凡に見えた。日本のどこにいても見られる海の景色に。

 あの景色は、彼女がいたからこそもたらされた、まるでこの土地一帯が彼女の魔法にかけられたような、そんなものだと僕は感じていた。

 そんな魔法も解けて、はっと我に返った僕は、海から陸に戻ると、濡れたままの砂が大量についた足をサンダルに突っ込んで、そのまま祖父母の家へと帰った。

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