誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
「そろそろ、披露宴会場の方へどうぞ」
係りの人が呼びに来て、律さんはすっと立ち上がった。
鏡に映る姿は悔しいほどの完璧で、周りの人たちが羨望の眼差しを向けているのが分かる。
「行こうか」
「はい……あっ、」
思わずあげてしまった声に、律さんは「何か」という表情でこちらを見た。
その唇には、先程行った誓いのキスで付着した私のリップが僅かに残っている。
「リップが」
「……あぁ」
面倒くさそうに頷いた律さんは、親指で自分の唇を拭い、それから吐き捨てるようにこう呟いた。
「だから、披露宴なんてしなくていいって言ったのに」
「……」
「君にも面倒をかけて悪いと思っているよ」
「……」
「まぁ、せいぜいあと2時間ほどの辛抱だ。君はただ笑って高砂に座っていてくれればいい」
「……分かりました」
目の前にある扉が開けば、また大きな祝福を受ける。
私はそこで最大級の笑みを浮かべて、幸せな花嫁を演じなければならない。
(これで、本当にいいのかな……?)
――なんて、迷ってももう遅い。
私は自分の守りたいものを”維持”するため、この人に未来を捧げたのだから。
『ただいまより、KIRIGAYAグループ常務取締役、桐ケ谷律さんと、夏川百花さんの結婚披露宴を執り行います』
『新郎新婦のご入場です、大きな拍手でお迎えください!』