誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
ダメだ、ハナちゃんは完全に騙されている。
実は違うなんて言ったら、どれほど落ち込むことか……!
「ちょと来てください、常務!」
病室を出た私は、先を歩いていた常務の腕を捕まえて人気のないところへ引っ張って行った。
「どうして、あんな嘘を」
「君が僕の出した条件を飲めば、嘘じゃなくなる」
「……なぜ、結婚なんですか? それもどうして私なんかと」
「あぁ、そうか。理由を話してなかった。父親から結婚をするよう言われていてね。このままいくと俺の大っ嫌いな女と結婚することになる。そうなる前に、別の結婚相手が必要なんだ」
「つまり、誰でも良かった」
「誰でもいいわけじゃない。俺に好意を持っている女は困る。後が面倒だから」
なんて、傲慢な……。
嫌いな女性と結婚させられそうだから先手を打ちたいけど、後腐れない人とじゃないと困るってこと?
ということは、
「いずれは離婚するってことですか」
「期間限定と言った方が聞こえが良いだろ」
そう訂正した常務は持っていた鞄から、A4サイズ封筒を取り出した。
「中に婚姻に関する条件が書いた紙が入っている。目を通してくれ」
受け取ったその用紙には、こう書かれてあった。
・婚姻期間、3年(ただし、やむを得ない場合、その期間が縮まることも可)
・夫は婚姻期間中、妻が必要とする費用を全て支払う
・妻は婚姻期間中、夫から申し出があった会合に同行する
・婚姻はあくまで書類上であり、互いのプライバシーを侵害しない