誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
「すみません、大声を出してしまって」
「それは良いが……シミというのは取れないものなのか?」
「汚れてから時間も経ってますし、大事な着物なのでクリーニングに出すしか」
下手に自分でやって生地が傷んでしまったら困るし。
でも、着物のクリーニングって高いのよね……。
「そうか、じゃぁコンシェルジュに頼めばいい。今の時間は居ないから明日になってからだな」
「そうします」
「代金は気にするな、俺が出すから」
「いえ、これは自分で」
「”妻が必要とする資金を全て負担する” これも契約の1つだ」
やっぱり律さんは、徹底して決め事を守りたいようだ。
有難いような、どことなく寂しいような?
「ありがとうございます」
だけど、1つだけ。
孤独死することはなさそうで、そこは素直に嬉しい。
* * *
「こんばんはー」
「あら、村田さん。いらっしゃいませ」
「いつもの1本ね」
「はい」
今日の先付けは、カニ身とホウレン草の和え物。
日本酒は香りと味わいが強く感じられるよう45℃の上燗に。
お客様の好みに合わせて、料理とお酒を選ぶこの瞬間が一番好きだなぁ。