誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
びっくりした……。
お店の中に入って来たのは、KIRIGAYAグループの専務取締役。
律さんのお兄さんだ。
「百花ちゃんのお店を見てみくて来ちゃった」
「そうですか……あ、こちらどうぞ」
村田さんが目で『誰?』と聞いてくる。
私はそれに対し首を僅かに振るしかできず、指定したカウンターにおしぼりとお箸を並べた。
「お飲み物はどういたしますか?」
「じゃぁ、ビールを貰おうかな」
「少しお待ちください」
何だろう、これはいわゆる視察……?
弟がどこの馬の骨とも分からない女と結婚したから、探りを入れにきたとか?
そんな私の心の声を読んだのか、専務は肩を揺らして笑いだした。
「っぷぷ、ちょっとそんな神妙な顔しないで。別に他意はないよ。純粋に義妹が、どんなところで働いているのか見たかっただけなんだ」
「小さなお店ですけど、私の宝物のような場所です」
「うん、良い店だね。落ち着くし、何と言っても女将が美人」
「ふはは、兄ちゃんよく分かってるね!」
村田さんがそう声をかけると、専務はニッコリと笑った。
律さんと同じく美形の顔をしているけど、印象はずっと柔らかい。
果歩曰く、律さんを月に例えるなら、専務は太陽なんだとか。