誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
第一章
――3カ月前。
「では、お先に失礼します」
夕方の17時。
いつものように退社の挨拶をすると、向かいの席に座る山田さんが妬ましげに呟いた。
「はぁーいいよね、派遣さんは」
「おい、やめろよ。仕方ないことだろ。そういう契約なんだから」
間に入ってくれたのは、隣の席でパソコンを叩いている鈴木さん。
山田さんより2年先輩とあって、大人な考え方だ。
私はニッコリ笑って、2人に軽く会釈した。
「すみません、帰りますね」
「お疲れさまっす」
「お疲れさまー」
同フロアにいる人たちにも同じように声をかけて、出入り口へ向かう。
その背後で女子社員さんの囁き声が聞こえてきた。
「夏川さんっていつも17時になると飛び出して行くけど、なんかあるのかな?」
「さぁ、アイドルの追っかけでもしてるんじゃない」
「わー、やってそう。推しに貢いでいたり?」
「あるかもね、ああいう真面目そうなのがハマっちゃうんだよ」
よくもまぁ、そこまで妄想が広がるものだな。
半ば感心していると、またも鈴木さんがフォローしてくれる。
「やめろって、失礼だろ」
「だって、夏川さんって飲み会だけじゃなくて歓送迎も参加しないんですよ」
「そういうのが苦手な人もいるだろ」
「えー信じられないぁい」