誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします


「こちら先付けです。このあとの料理は何が良いですか?」

「百花ちゃんに任せるよ」

「かしこまりました。嫌いな食べ物やアレルギーはありますか?」

「ないない、なんでも食べられる」


へぇ、そうなんだ。
同じ兄弟でも違うもんなんだなぁ。

律さんは、野菜全般が苦手なようで最初に料理を出した時は少し嫌そうな顔をしていた。
だけど、箸を付けてみて意外そうにパクパク食べてくれた。
後で聞いてみたところ、思ったより野菜のクセがなくて美味く感じたそうだ。
単に食わず嫌いだったのか、大人になって舌が変わったのか分からないけど、苦手克服に役立ったと思えば料理人冥利に尽きる。
実を言うと、律さんが私の料理を食べる姿を眺めるのが好きだ。


「百花ちゃん、この揚げ出し豆腐、最高!」

「ありがとうございます。専務は魚も……、」

「ちょっと、その専務って呼び方はやめてくれよ。義理とはいえ兄なんだから”お兄ちゃん”って呼んで欲しいな」

「お、お兄ちゃんですか」


それはちょっと恥ずかしいかも。
お兄ちゃんだなんて……と、心ので復唱して、不意に懐かしい気持ちが込み上げてきた。

『お兄ちゃん、シンお兄ちゃん』

昔、そう呼んで親しくしている人がいた。
母の恋人が連れて来ていた息子さんだ。

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