誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
当時シングルマザーだった母に想いを寄せている男性は1人や2人じゃなかったようだけど、その中でも『おじさま』は、母にとって特別な存在だったようで。
そして、そのおじさまと一緒にやって来る男の子も、私にとって特別だった。
『百花、お兄ちゃんと一緒にお絵描きする?』
『するー!』
『何を描く?』
『お花!』
『百花は花が好きだね。大きくなったらお花屋さんになったらいいよ』
『わー!お花屋さんになりたい!お兄ちゃんも一緒になろう』
仕事が忙しい母と2人きりの暮らしで友達もろくにいなかった私にとって、お兄ちゃんは心が弾む存在だった。
いつも遊んでてくれて笑わせてくれた、泣くと抱きしめてくれた。
きっとあれが私にとっての初恋――。
「百花ちゃん? おーい、百花ちゃん!」
「えっ! あ、すみません、何でしょう?」
「週末の食事会。緊張するとは思うけど、気楽にね。今日はそれを言いに来たんだ」
「専……お兄さん。ありがとうございます」
「”お兄さん”か、それも悪くないね」
専務、改め、お兄さんは少しガッカリしたような笑顔を浮かべたけど、すぐに気を取り直して鯛の煮付けを口に運んだ。
「うーん、この味も絶妙。百花ちゃん今から遅くないよ、僕のお嫁に来ない?」
「お兄さんって既婚では……」
「そうなんだよね。早く帰らないと〆られる。うちの奥さん超怖いから」
お兄さんはそう言うと、首を絞められる仕草をして舌を出した。
何て言うか……愉快な人だな。