誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
お姉さんのご実家は老舗の和菓子メーカで、お父さんは地元の議員を務めていたこともある名士だそう。
蝶や花よと育てられた生粋のお嬢様であることは、その立ち振る舞いを見ていれば分かる。
本来、KIRIGAYAグループの御曹司と結婚すべき相手はこういう生まれの人なんだろう。
食事会は、そのことを身に染みて感じる場となった。
「みんな揃ったね、じゃぁ新しく家族になった百花ちゃんに乾杯しようか」
お兄さんが明るく場を和ませようとしてくれたけど、お父さん、お母さんは無言で食事を始めた。
お姉さんも我関せずと言わんばかりに、ワインを飲んでいる。
「あはは、みんなお腹が空いてたみたいだね。百花ちゃんも、律も食べよう」
「……頂きます」
気まずい……! 正直、とっても気まずい。
お兄さんが居てくれて本当に良かったけど、できればもう帰りたい。
「百花さんのお父さんは、」
前菜を食べ終えたお母さんが、何か考え事をするような表情でそう切り出した。
周りの空気が、ピリッと張り詰める。
「お父さんは何をしている人だったかしら?」
「普通のサラリーマンだったと聞いていますが、私が生まれてすぐ亡くなったので覚えていません」
「そうなの。普通の、サラリーマンね。お給料を貰って働くのって、どういう気分なのかしら」