誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
露骨な嫌味に、開いた口が塞がらない。
お給料を貰って働く気分ですって……? 有難い以外に他はないよ。
テーブルの下で拳をぐっと握りしめていると、不意に律さんが手が重なった。
ポンポンッと、私の拳を軽く叩いてから真っすぐにお母さんを見つめる。
「俺も給料を貰っている身分だけど、どんな気分か聞きたい?」
「律さん……私は、そんなつもりで」
「働いたら働いた分だけの給料をもらう、それ以下でもそれ以上でもない。働いたことがない人間に、その気分は一生分からないだろ」
「ま、そういうことだね」
そうお兄さんも頷いたことで、お母さんは顔を真っ赤にさせた。
「また兄弟揃って私をいじめる気ね。いくら私が本当の母親じゃないからって、あなたたちは……馬鹿にしないでちょうだい」
「馬鹿にはしていない、住む世界が違うと言っている」
「……律、いい加減にしないか」
お父さんが静かな声で、律さんを窘めた。
そういえば、私、初めてお父さんが喋ったのを聞いたような……?
結婚の挨拶に行った時でさえ、「あぁ」「そうか」しか、言わなかったから分からなかったけど、律さんによく似た声をしている。