誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
「お待たせしました」
「おっ、今日のお通しは銀杏かぁ! 秋だねぇ」
「村田さんが好きだと思って用意していたんです」
「上手いこと言うようになったねぇ、もうすっかり女将さんだ」
「まだまだですよ」
私がこのお店を継いだのは、半年前。
病気でこの世を去った母が大切にしていたお店で、私にとっても思い入りの深いお店だったため、営業を続けることを決めた。
ただ、経営は思ったより簡単ではなくて、昼間の仕事もして何とか継続できているのだ。
「そうやって零ちゃんの着物を着てると、彼女が生き返ったみたいだな」
「本当ですか? あんまり似てないって言われるんですけど」
「確かに顔は似てないけど、雰囲気っていうのかな? 立ち姿なんかはそっくりだよ」
「嬉しいです、そう言ってもらえるのも、母のことを覚えててくれるのも」
「よせよぉ、酒が湿っぽくなるじゃねぇーか」
村田さんは母のファンだと公言してくれていて、今でも店に通ってくれる大切なお客さん。
小さな工務店を経営していて、店の飾り棚なんかは村田さんが作ってくれたのだとか。
お客さんの特別な日は得意料理でもてなしたり、落ち込んだ日は女将さんの顔が見たいと言ってもらえたり。
そういう関係を築ける女将に、私もなりたい。