誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします
「案外近くで百ちゃんのことを見ているのかもなー」
「きっとそうだと思います」
「常連客の中にいたりして」
「それはないと思いますけど……」
うちの顧客は年齢層が高めで、若い男性は数えるくらいしか来店しない。
食材を届けてくれる業者さんも50代くらいの人だし、「この店に出入りする人なんておじさんばっかりですよ」と言いかけて、口を噤んだ。
いけない、いけない、村田さんの気を悪くさせちゃうところだった。
「顔とかまったく覚えてないの?」
「何となくの雰囲気くらいしか覚えてないですね、子供でしたし」
「そりゃそうだよなぁ」
シンお兄ちゃんについて。
いつも近くで見てくれているなら、正体を明かしてくれてもいいと思っていた時期もある。
だけど、今はシンお兄ちゃんにはお兄ちゃんなりに理由があって姿を見せてくれないんじゃないかと思うようになった。
毎年こうして誕生日の花を贈ってくれることで、シンお兄ちゃんを近くに感じることができる。
それだけで、十分だよ。
「村田さん、もう1本つけますか? サービスしますよ」
「お、いいのかい?」
湿っぽい雰囲気になってしまったお詫びに、という気持ちを込めて。
私も1杯頂いちゃおうかな。
そう思っているところで、お店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
――って、どうしてここに?
入り口に立っているのは、律さんのお父さんだった。